バイオダイナミック農法とは?

バイオダイナミックという言葉はワイン通の方や自然派コスメに関心のある方なら一度は耳にされたことがあるかと思います。自然の営みや生態系を無視した農業の近代化に疑問を持った学者ルドルフ・シュタイナー(1861-1925)が1924年にバイオダイナミック農法に関する講義を行って学術的に注目を浴びて以来、この神秘的ともいえる農法はヨーロッパにおける権威あるオーガニック農法として定着しているようです。

事の始まりは、1800年代後半から徐々にヨーロッパで普及し始めた燐酸系・窒素系化学肥料の使用により今まで何百年も続いてきた伝統ある農地が次々と不毛の地と化していったことにあります。化学肥料の使用によって1920年までには既に作物の味、病虫害に対する抵抗、家畜の健康、タネの発芽率などが著しく低下するという弊害が出てきて、人智学に親しむドイツの農民達がシュタイナーに助けを求めたのです。これに応じる形でシュタイナーは、自然のリズムとの調和を重んじて健康な土壌作りと植物の組成力増進の達成を図る持続可能な農業に関する8つの講義(農業講座―農業を豊かにするための精神科学的な基礎)を授けました。

バイオダイナミック農法では、太陽、月、惑星と地球の位置関係が土壌や生命体の成分及び気象等に与える影響を重視して、種まき、苗植え、耕うん、調合剤の準備や施肥、収穫などの時期を天体の動きにあわせて選択します。また、土壌バランスや植物を健康に保ちつつ効果的な収穫をあげるためのサプリメント或いはコンディショナーとして、人為的な化学物質はいっさい使用しないかわりに、天然のハーブや鉱物、家畜を利用して作った各種調合剤を施します。この農法は世界各地のバイオダイナミック・リサーチセンターで長年にわたって実験が繰り返され、高い効果が報告されています。昔の農民達の間で迷信のごとく伝わってきた星の運行による農事暦の知恵が、シュタイナーと彼以降の研究者により体系立てられて甦り、一定の評価を得るに至ったといっても良い。

科学万能一本槍の近代農業は化学肥料使用によって出てきた様々な弊害に対してまったく別の対処をしてきました。すなわち、味の低下には慣れてしまい、病虫害への抵抗力減少には化学農薬を開発投与し、家畜の健康悪化には抗生物質を投与し、タネの発芽率低下にはタネの殺菌や防腐処理を施すことでしのいできたわけですが、近代農業の先進地ヨーロッパでこういった方法に頼り切ってきた農地は狂牛病の発生等で次々と行き詰まって転換を迫られています。実はシュタイナーは既に1920年代に狂牛病の発生を予見していました。自然の摂理を無視したやり方を続けていればそのしわ寄せがより大きな問題となって浮上してきて、結局は自然からしっぺ返しを喰らう結果となってしまうということに気づき始めたヨーロッパの人々。その地でバイオダイナミック農法に転換する農家が以前にも増して増えてきたり、遺伝子組み替え作物が強く反対されている理由もわかるような気がします。

鹿の膀胱など特殊な材料を使う調合剤の入手は家庭菜園ではなかなか難しいものの、バイオダイナミック・カレンダーを利用したガーデニングはカレンダーさえ入手すれば一般家庭でも手軽に始められます。

バイオダイナミック・カレンダー

月は27.3日周期で地球の周りを一周します。つまり、地球から見て12の星座の各宮を2、3日ごとに通過していきます。双子座から射手座にむけて月は下降し、射手座から双子座にむけて月は上昇します。一般的に月がどの宮に位置するかによって地上の受ける影響は下表のようになります。

花の日 葉の日 実の日 根の日
地球から見た月の方位
(数字は移動順)
(→は下降、⇒は上昇)
1.双子座宮→ 2.かに座宮→ 3.獅子座宮→ 4.乙女座宮→
5.天秤座宮→ 6.さそり座宮→ 7.射手座宮⇒ 8.山羊座宮⇒
9.水瓶座宮⇒ 10.うお座宮⇒ 11.牡羊座宮⇒ 12.牡牛座宮⇒
要素 風・光
気候 風・光 水分、湿気が多い 温かい 冷たい、寒い
同じ要素を持つ惑星 木星、金星、天王星 月、火星、海王星 土星、水星、冥王星 太陽
活性化される物質 リン酸カリ カルシウム 硫黄分 窒素分
影響を受ける
植物の部位
果実(獅子座は種子も含む)
扱うのに適した植物 花、球根、薬用ハーブ、ブロッコリ 葉野菜(レタス、パセリ、ほうれん草)、キャベツ、カリフラワー、チコリ、アスパラ、フェンネルなどのハーブ 豆類、穀物、実野菜(きゅうり、かぼちゃ、トマト、とうもろし、ピーマン)、いちご等 根菜(にんじん、かぶ、ビート、ごぼう、大根、いも)、タマネギ、にんにく等
ミツバチの活動 蜜の収集 花粉の収集 蜂蜜作り ハチの巣作り

種まき

花、球根、ブロッコリ、薬用ハープ、コンポスト用植物は「花の日」に耕し、種を蒔くのが良いとされています。葉野菜(カリフラワーはこのグループ)は「葉の日」に、実を収穫する野菜は「実の日」に蒔くのが良く、根菜は「根の日」に蒔くと収穫も保存も良いそうです。

耕うん

種まきや収穫と同じく、葉野菜なら「葉の日」、根菜なら「根の日」に耕うんします。土を耕すといっても深さ3センチ以内にとどめます。これは大気中の窒素分を土中に入れてやる働きをします。土は、朝に大気を吐き出し、夜に大気を吸い込みます。湿気の多いときには朝に耕して水分の蒸発を促してやり、乾燥しているときには夕方に耕して水分の吸収を促してやると良いそうです。また、お昼時に耕うんするのは良くないことが確認されています。

北半球では太陽が牡牛座か乙女座に位置しているとき、南半球では太陽が山羊座に位置しているときに土中の窒素分が最も高いことが確認されています。月が牡牛座、乙女座、山羊座に位置する時(つまり根の日)に耕うんしてやると土中の窒素分が上昇します。

苗の植えつけ

北半球で苗を植えるのに最も適した時期は、月が双子座から射手座へと下降する時期といわれています。月の下降期は土が大気を吸入し、植物の樹脂の流れや力が低い場所に集中するので力強い根の成長促進につながるからだそうです。月の下降期間中にその野菜グループに適した「日」に植えつけてやると効果は倍増します。月の下降期には肥料を施したりコンポスト用の豆科植物の種まきにも適しています。一方、月の上昇期には逆に土は大気を吐き出すので植物は上方向への成長が促進されます。

*注:南半球では条件は反対になります。

さし芽

さし芽は苗植えと同様、根の発展が重要ですので月の下降期に行います。セントポーリアは月が双子座の宮にある時(花の日)にさし芽を行うと良いそうです。芽を摘むときには月の上昇期の適した日に行い、湿った紙などに包んで涼しい場所に保管しておき、月の下降期の適した日に芽をさしてやると良いそうです。

収穫と保存

すぐ食べるものについてはいつ収穫しても構いませんが、保存のために収穫する場合、花野菜は「花の日」、根菜は月の下降期の「根の日」の夕方、実野菜は月の上昇期の「実の日」に収穫するのが良いとされています。ただし、「葉の日」に収穫した野菜は一般的に甘みがあっても日持ちしないので、葉野菜は「花の日」か「実の日」の朝に収穫します。キャベツ類は「花の日」の朝に収穫するのが良いそうです。

種の収集

きちんと結球しなかったレタスからとった種はやはり翌年もきちんと結球しないそうです。品質の良いものから花をつけさせてそれを葉野菜なら「葉の日」、根菜なら「根の日」に収穫します。種の収穫を目的として実のなる野菜をとるときは「実/種の日」(獅子座)に収穫するのがベストです。

惑星の影響

上記の法則はいつもあてはまるわけではなく、そのときどきの惑星の位置関係によって活性化される要素が変わってきたり、マイナス要素が働いて効果が相殺されたりしますので注意が必要です。

ある惑星がそれと同じ要素を持つ宮を通過したときにはその効果が倍増しますが、違う要素の宮を通過したときには効果は減少、あるいは相殺されます。例えば、「熱」の要素をもつ水星が地球からみて牡羊座(熱)の位置にあるときには暖かい日となりますが、牡牛座(冷)を通過したときには「熱」の効果はあらわれず、逆に「冷」の効果を押し出すことがあります。また、水星が「水」の宮、例えばさそり座を通過したときには、その「熱」の影響が雨をもたらすことがあります。

「風・光」の要素を持つ金星が天秤座などの要素を同じくする宮を通過したときには澄みきった青空、長く続く晴天、澄んだ空気となる可能性が高いですが、乙女座などの「地」の宮を通過したときには寒い夜と霧をもたらす可能性があります。「水」の宮を通過するときには金星の「風・光」の効果はなくなってしまいます。

月、あるいは「水」の要素をもつ惑星が、やはり「水」の宮に属する星座を通過したときには降水量の多い時期になるでしょう。

また、天王星と電気、海王星と磁気、冥王星と火山活動との関連も報告されているようです。一般に惑星が交差する日や日蝕、月蝕が起きる日などはガーデニングに適さないようです。